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日本語と韓国語における敬語の違い Differences in Honorifics Between Japanese and Korean

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皆さん、こんにちは。今日は敬語をテーマにお話をしながら、その背景にある日本の文化を紹介できたらいいなと思っています。ちょっと長い動画になりそうですが、お付き合いください。

動画でもこれまでにも何度もお話をしているので、ご存知の方が多いと思うんですけど、私は今、韓国語を勉強しています。韓国語って、私にとっては比較的習得しやすい言語です。簡単とは言いません。簡単とは言いませんが、英語とかに比べると、遥かに習得しやすい言語だと思っています。その理由は皆さんもおそらく想像がつくと思うんですけど、日本語と似ているからですね。韓国語と日本語には共通点がたくさんあります。例えば語彙。日本語にも韓国語にも中国から入ってきた単語がたくさんあります。中国語に由来する単語に関しては、発音がよく似ています。なので覚えやすいし、知らない単語でも推測できたりします。それから文法的にも共通点が多いですね。例えば語順は基本一緒ですし、あと助詞「〇〇は」とか「〇〇が」とか「〇〇を」みたいな助詞があるという点も共通しています。

それから、今日のテーマでもある敬語ですね。どちらの言語も敬語がすごく発達しています。韓国語も日本語と同様に、まずタメ口と「です。ます。」みたいな丁寧な言葉を使い分けます。そして尊敬語と謙譲語もあります。尊敬語と謙譲語、簡単に説明すると、尊敬語は相手を敬って相手を立てる言葉です。謙譲語は逆にへりくだって自分を下げる表現です。例えば、「いる」の尊敬語は「いらっしゃる」です。社長がいらっしゃいます。謙譲語は「おる」ですね。私は家におります。「する」は尊敬語にすると「される」になったり、「なさる」になったりします。社長が〇〇されます。謙譲語では「いたす」です。私が〇〇いたします、ですね。といったように、同じ言葉でも目上の人がその動作をする時には尊敬語を使い、自分がする時にはへりくだって謙譲語を使って表現します。韓国語も同じようにタメ口、一般的な丁寧な言葉、そして尊敬語、謙譲語の区別があります。

ただ、敬語の概念自体は同じなんですが、使い方や使う状況を詳しく見てみると、実はちょっと違うんですね。で、今日はちょっと韓国語における敬語の使い方と日本語における敬語の使い方を比較することで、その背景にある見えない文化についてもお伝えできたらいいなと思っています。まず、韓国語と日本語の敬語の違いを見ていく上で重要なキーワード、それは「絶対敬語」と「相対敬語」です。韓国語の敬語は絶対敬語の傾向が強い、そして日本語の敬語は相対敬語の傾向が強いと言われています。どういうことでしょうか。ちょっと例を挙げて、一緒に考えてみましょう。

田中さんはA社の社員です。平社員です。普通の社員です。この人は部長の山田さんです。田中さんと山田さんの間には上下関係がありますよね。上司と部下ですからね。当然、田中さんは山田部長に対して敬語を使います。山田さんを敬って、山田さんを立てて、丁寧な言葉で話します。これは日本でも韓国でも同じです。ではここにもし第三者、別の人が加わったらどうなるでしょうか。

こんな状況を仮定しましょう。山田部長は今、会社にはいません。山田部長の外出中に、取引先、仕事で関わりのある別のB社の鈴木さんから電話がかかってきました。田中さんが電話を取ると、鈴木さんが「山田部長はいらっしゃいますか。」と言いました。じゃあ、ちょっとここでクイズをしましょう。今から田中さんの対応を2パターン言うので、どっちが日本語的な言い方で、どっちが韓国語的な言い方か、ちょっと考えてみてください。

1番です。「申し訳ございません。山田部長はただいま席を外していらっしゃいます。」席を外すというのは、今その場にいないという意味です。もう一度言いますね。1番は、「山田部長はただいま席を外していらっしゃいます。」です。2番。「申し訳ございません。山田は只今席を外しております。」1番と2番の違い、分かりましたか。1番の方では、田中さんは山田部長のことを「山田部長」と呼びました。それに対して2番の方では、「山田は」と呼び捨てにしましたね。「部長」という敬称をつけませんでした。1番の方では「席を外していらっしゃいます。」と、部長の行動を尊敬語を使って立てて言っていました。それに対して2番では、「席を外しております。」と、謙譲語を使ってへりくだった言い方をしていました。さあ、どっちが日本語でどっちが韓国語的な言い方でしょうか。

これは、正解は1番の方が韓国語的な敬語の用法で、2番の方が日本語的な敬語の用法です。さっき韓国語の敬語は絶対敬語だと言いました。韓国語では、自分よりも目上の人であるかどうかという上下関係が、敬語を使う上での絶対的な基準です。絶対的、常に変わらない、揺るがないということです。だから部長本人と直接話をする時はもちろん、別の人と部長の話をする時にも部長のことは常に立てなくちゃいけません。なので、「山田部長はただいま席を外していらっしゃいます。」になるわけです。一方日本語は、さっき相対敬語と言いました。相対というのは、状況によって変わるということです。部長と直接話をする時には当然部長を立てて敬語で話しますが、そこに外部の人、第三者が加わると、敬語の使い方が変わります。部長のことを、へりくだった謙譲語を使って話さなくちゃいけません。

なんででしょうね。なぜかと言うと、日本語では上下関係も重要ですけど、上下関係以上に「ウチとソト」の関係が重視されるからです。ウチとソトって聞いたことありますか。これは日本社会、日本文化における人間関係を理解する上でとても重要なキーワードです。もう一度この3人の関係性を見てみましょう。田中さんと山田部長、2人の関係性だけを見ると、上司と部下ですから、上下関係がありますね。でも第三者、別の会社の鈴木さんが加わって3人の関係性を見ると、ウチの会社の人と、ウチの会社の人じゃないソトの人、ウチとソトの関係ができるんです。田中さんと山田部長はA社という同じ会社に属する仲間というか、身内です。鈴木さんは同じグループに属する人ではありません。ソトの人、外部の人、他人です。日本の社会では、このウチとソトがとても大事で、いくら田中さんにとって山田部長が目上の人であっても、身内の部長よりも他人の鈴木さんの方をより立てなければいけません。ソトの人である鈴木さんを立てるために、ウチの人である部長のことをへりくだって、「山田」と呼び捨てにしたり、「席を外しております」と謙譲語を使ったりして表現するんです。

じゃあもしさっきの電話の相手が取引先の鈴木さんじゃなくって、同じ会社の高橋さんだった場合はどうなると思いますか。高橋さんは同じ会社に所属するウチの人ですから、この三人の中にはウチとソトの関係はありません。その場合は部長を立てて問題ありません。なので、電話の相手が高橋さんだったら、「部長は今、外出して席を外していらっしゃいます。」と言えるということになります。

ウチ・ソトの関係よりも上下関係を重視する韓国語では、年上の家族にも敬語を使います。これは絶対ではないみたいなんですが、実の親やおじいちゃん、おばあちゃんに対して敬語を使うことが多いみたいです。日本語では、たとえ年上の、目上の人であっても家族に対して敬語を使うということは基本的にはないですよね。身内だからですね。そして自分の家族の話を他人にする時、ウチの人の話をソトの人にする時にも違いがあります。例えば、「おじいちゃんが今、家にいる」っていうことを他人に伝える時。その場合、韓国語ではおじいちゃんはたとえ家族であっても常に立てなくてはいけない年上の人ですから、年長者ですから、「おじいさんは家にいらっしゃいます。」という言い方になります。尊敬語を使うんですね。でも日本語ではさっきも言ったように、ウチとソトの関係が大事なので、ソトの人に対して自分の身内であるおじいちゃんのことを立てて話すのはおかしいです。「祖父は家におります。」と謙譲語になるわけですね。もちろん、たとえソトの人と言えど、その話す相手が例えば友達とか親しい人だったら、「あ、おじいちゃん今家にいるよ。」でいいんですけど、あ、日本語の場合ですね。この話す相手が自分よりも目上の人だったり、親しくない、丁寧な話し方をするような間柄の人だった場合です。その場合は、おじいちゃんのことをへりくだった言葉で表現しなくてはいけません。だから日本語には、父、母、祖父、祖母、兄、姉のように、身内のことを他人に話す時に使う特別な言い方があるんですね。

私は結婚してるので、自分の両親とは別に義理の両親がいますよね。夫の両親がいます。私にとって義理の両親は、まず年上ですし、それにやっぱり少し距離がありますから、普段は丁寧な言葉で話をします。ものすごく丁寧な言葉じゃないですけど、ま、普通の丁寧な言葉で、敬意を持って話します。そして例えばですけど、夫側の親戚がいますよね。叔父とか叔母とかと例えば義理の母の話をする時も、私は義理の母を立てて話します。でも例えば、赤の他人に義理の母の話をするとなると、母は私にとってウチの人になります。ここにウチとソトの関係ができるので、例えば「母は今、外出しております。」のように、謙譲語を使ってへりくだった言い方をするのが正しい敬語の使い方になります。難しいですね。とっても難しいと思います。ネイティブの日本人でも、正直間違うことはたくさんあります。

もう一つ、面白い例を紹介します。田中さんは会社主催のあるセミナーで司会を任されました。会場にはたくさんの参加者が集まっています。田中さんは壇上で司会をしています。次は社長の挨拶です。司会者の田中さんが社長をステージに呼びます。その時、実は参加者がどういう人たちなのかによって、田中さんの言葉が変わるんです。これもちょっとクイズにしましょう。1番。「佐藤社長より一言ご挨拶をいただきます。」2番。「社長の佐藤より一言ご挨拶申し上げます。」違いは分かりましたか。1番では社長を立てていましたね。2番ではへりくだった言い方をしていました。さて、1番と2番それぞれ、セミナーの参加者はどんな人たちだと思いますか。

正解を言いますね。1番の「佐藤社長より一言ご挨拶をいただきます。」の方は、聞いている人たちは同じ会社の人です。聞き手が同じ会社の人であれば、ウチとソトの関係はありませんから、みんな身内の人間ですから、通常通り、いつも通り目上の人である社長を立てます。じゃあ2番はどうでしょう。「社長の佐藤より一言ご挨拶申し上げます。」これは、参加者が、例えばお客さんとか取引先の会社の人とか、自分の会社の人ではないソトの人の場合です。聞き手がソトの人の場合は、自社の社長よりも外部の人を立てなくちゃいけないので、へりくだった言い方をするということです。おそらくですけど、これ韓国語だったら、聞いている人が自分の会社の人であろうと取引先の人であろうと、同じように社長を立てて、「佐藤社長より一言ご挨拶いただきます。」になると思います。韓国の方、もし見ていたら、私の理解が合ってるかどうか教えてください。

はい、ということで、日本語と韓国語の敬語の違い、韓国では日本と比べて上下関係が絶対的、日本では上下関係以上にウチとソトの関係が重視されるということが分かったでしょうか。じゃあさらに、その背景にある文化の違いを少しお話しします。

韓国でも日本でも上下関係が重視されるのは同じことです。そして、それは儒教の影響を強く受けているからだと言われています。儒教です。儒教というのは、二千年以上前に中国で生まれた宗教、思想です。考え方ですね。中国で孔子という人が始めて、その後、東アジア全体に儒教の思想が広まりました。そして儒教は、東アジアの人々の考え方や倫理感、モラルに大きな影響を与えました。で、儒教の教えの中に「長幼の序」という言葉があるそうです。これが正に、上下関係を大切にしましょうという教えなんですね。年少者は年長者を敬わなくてはいけないという考えなんです。これはさっきも言ったように東アジア全体に広まり、日本人の価値観にも大きな影響を与えたんですが、朝鮮半島、ここですね、韓国と北朝鮮がある半島を朝鮮半島と言いますが、朝鮮半島では、日本以上に儒教の影響を強く受けてきたと言われています。中国から入ってきた儒教は、朝鮮半島で独自に発展していって、1400年頃から1900年頃までの約500年間は、儒教が国教とされていた程です。国教というのは、国の境目という意味の国境ではなくて、国の宗教という意味の国教ですね。

一方、日本の敬語において、上下関係よりもさらに重視されているのがウチとソトの関係でしたよね。で、これは私が感じたことなんですが、私が感じたのは、日本社会って協調性がすごく大事にされているじゃないですか。周りと足並みを揃える、周りに合わせる、協調性を大事にします。そして集団の「和を保つ」「和を乱さない」みたいな言葉もありますよね。和を乱す人は嫌がられてしまいます。だから、何て言うんでしょう…帰属意識が強いと言えると思うんですよね。ある集団の一員だという意識が強いです。自分が属するグループ、つまりウチですよね、とソトの世界がはっきり区別されていて、ウチのグループの一員として行動するっていう意識が強いんだと思います。そういった文化の特徴が、言葉、敬語の使い方にも見られるというのが、個人的にはすごく面白いなと私は思います。

実は日本でも昔は絶対敬語を使っていたそうなんです。時代の流れや社会の変化とともに、言葉も変化していきますから、昔は例えば他人に対して自分の家族のことを尊敬語を使って話していた時代もあったんだそうです。今でも一部の方言には残っているんだそうですよ。それもまた面白いですよね。

今日は、日本語と韓国語の敬語の使い方の違いを比較しながら、その背景にある文化について紹介しました。それでは今日はここまでです、またね!

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